雑文

【3000文字チャレンジ】東京・みかん大戦

※この記事は、3000文字チャレンジという企画参加用のものです。ほかの通常の記事とは全く異なり、以下、特にためにならないだらだらとした文章が延々と続きます。ご承知おきください。

 

ぼくはみかん。

大分県の、とある農園で取れたみかん。みかんは冬が出荷のピークで、ぼく、というかぼくらももうすぐかなーと思っていたら、箱詰めにされた。

行先は東京の、個人宅。

みかん好きな人に選ばれて箱買いされたかな!やった!とか思っていたら、どうやらちょっと、違うらしい。

ふるさと納税の、返礼品とかいうものに、ぼくらは選ばれたのだ。

ふるさと納税ってのが、みかんとしてはよくわかんなかったんだけど、育ててくれたおっちゃんの話によると、ぼくらはどうも、この農園を代表して、行くらしい。

「ふるさと納税の返礼品だからな…あの農園のみかんはうまい!ってことになれば、口コミも広がるからな!」

よくわかんないけど、とにかく、農園の未来をちょっと背負っているらしい。みかんの大役…果せるかなぁ、でも果さないとおっちゃんがなぁ…

とか思っているうちに、ぼくらは東京のとあるマンションに到着した。

何と、ぼくらの箱の上には、他県のみかんが積まれていた。。。

 

な、なんで?

みかん、そんなに??

 

ぼくらはちょっと動揺したけれど、それは他県のみかんも同じだったかもしれない。

みかん好きはみかんの箱買いってのは結構するんだけれど、それだって基本は、1箱ずつ買う。みかんにも鮮度ってものがあって、ほら、みかん結構、腐るし。

だから普通は1箱ずつ買う。冬の間中みかんは基本的に売っているのだから、なくなってからまた買えばいいのだし。

それをどうしたことだろう、この家の人間は、みかんを二箱同時注文したらしいのだ。

よく分からん。よくわからんが、これは戦いだ!

みかんが同時到着した以上、同時に開封、比較されることは間違いない。

どちらかのみかんが気に入られれば片方は放置気味になり、下手すれば腐ってしまうかもしれない。

我らはふるさと納税の勇士、わが農園のみかんのおいしさを広めるため、ここ東京まで来たというのに、他県のみかんに負けて腐ったなどと、おっちゃんに知れたら大変なことだ。

これは戦いだ!絶対に負けられない戦いだ!

といきがってはみたものの、もはや収穫後のみかんになすすべはない。あとは天命を待つばかりである。

 

ところで、この酔狂なみかん好き一家には人間が4人いた。大きめの子供と小さめの子供と、その両親だ。

どうも、みかん好きを率いているのは母親らしい。

母親は二箱のみかんを受け取ると、いそいそと開封しながら、

「にーにー、みかんきたー」と大きめの子供を呼んだ。

「みかん?!どれ?!うおおおお、たくさんあるねぇ!」

「2つ来ちゃった」

「おおお!こっちのみかん小さい!こっちのほうがでかい!」

「どっちがおいしいだろう」

「俺ねー、小さいほうがいいな!」

「そお?酸っぱいかもよ」

「小さいほうがおいしいってテレビで言ってたよ!」

なんと!双方のみかんには大きさの差があるらしい。箱の陰からそっと隣の箱をのぞいてみる。他県のみかん・・・どんなみかんなんだ…

・・・でかいな…

大きさでは完全に負けた。大分の完敗だ…おっちゃん、よそのみかんは大きいよ…

でも、あの大きめの子供の評価は小さいみかんのほうが高いらしい。

「どっちがおいしいか、食べ比べてみようか」などと、残酷なことをさらりと言う母親。

「お母さん、食べてみてよ!」

「なんで?食べないの?」

「俺ねー、おいしいほう食べるから。食べてみてお母さん」

大きめの子どもに至っては、残酷どころか人でなし感さえ漂う…

みかんを何だとおもってるんだ!僕たちは!農園を代表して!

あのどこかの県のみかんだってそうなんだぞ!敵だけど!

あ、そうだった、これは戦いだった。決して負けられない戦いだった!ということをようやく思い出していたら急に裁定が下された。

「あ~こっちのほうがおいしいわ~」

「どっち?」

どっち?!声にならない声をついついあげながら続く母親の言葉に耳を傾ける。

「こっち、この、小さいほう。えーと、あ、大分のほうだわ」

よっしゃー!勝った!勝ったよおっちゃん!!!大分の、農園の名誉にかけてぼくらはこの戦いに勝ったよおっちゃん!!!

「やっぱねー、俺の言った通りでしょ、小さいほうがおいしいんだよみかんはー。俺小さいの食べる~」

「いや、ちゃんと食べてよ大きいほうも」

「やーだー、小さいほう食べる~」

勝利の余韻の中で、人でなしの大きめの子どもの声を聴きながら、ちょっとぼくらは切なくなった。

どこぞのみかんよ…

君たちも、君たちだって決して、悪いみかんじゃないはずなんだ。ただちょっと、比較されてしまったからこんなことに・・・

物言わぬ他県のみかん。段ボールの隙間から除くその大柄な姿を思いやる。同じみかんとして…

しょうがないなぁ、こっちは私が食べるか、などとぶつぶつ言っている母親。致し方ない、みたいな雰囲気を醸し出している姿に、僕らはにわかに、いら立ちを覚えた。

だいたいな!二箱同時ってのがいけないと思うんだよ!どういう了見してんだよ!みかんはなー、そんなに日持ちするわけじゃないんだよ!鮮度ってもんがあるんだ鮮度ってもんが!

みかんだってなー、新鮮なうちに食べてもらいたいんだよ!それをなー?!

「なーんでこんな、二箱もあるの、みかん」と、帰宅した父親がのんきに訊いている。

「あー、それ、ふるさと納税でね。年末に、駆け込みで納付したからなんか、同時に届いちゃってー」

「あぁ~。そうなんだ。ま、しばらくみかん買わなくていいね」

「それがね、にーにーはこっちの小さいほうしか食べないのよ」

「なんで」

「こっちのほうが甘い」

「あー…そう」

「だからどうぞ、こちらの大きいほうを我々で」

「いや、俺はいい」

「なんで」

「だってみかん、酸っぱいし。俺、桃とか甘い果物がいい」

・・・この家の父親は、人でなしの大きめの子供以下だ。みかんに対してのリスペクトがない。

ふと視線を感じてみてみると、小さめの子供がこちらをうかがっていた。

 

・・・なんだ?君はみかん好きか?

 

「みかん~」

「そうよー、みかん食べる?」母親がすかさず勧めている。みかん布教活動。いいぞ、もっとやれ。

「みかん~」

「おいしいよ~?」

「みかん~食べないよー。みかん、ちゅっぱいよ」

な!食べもしないで!!俺たちはけっこう甘いっての!

このけったいなみかん好き一家。まさかのみかん派と反みかん派が真っ二つだった?!

まだ、小さめの子供はじっとこっちを見ている。反みかん派のくせに、なんだ?

「みかんねー、黄色くてねー丸くてねー、ぽいぽーいってしたらねー、にーにー怒ったー」

「当たり前だろ〜?!みかん投げたら潰れちゃうだろ」

「にーにー!怒っちゃ、やー!」

いきなり顔を真っ赤にして怒る小さめの子供。

いやいや急に怒ってるのは君じゃないか…

 

その後、みかん派の母親の裁量のもと、とりあえずはつつがなく日常は過ぎている。他県のみかんが余り過ぎることのないよう、母親が主に食べているようだ。

この母親のみかん好きは本物で、1度に3つ4つと食べている。うむ。みかんへのリスペクトも問題ない。

大きめの子供はぼくら大分みかんしか食べないが、立派なみかん好きへと成長するだろう。

問題は父親と小さめの子供である。

小さめの子供は僕らのことを、みかん色のボールとしか思っていないので非常に危険である。

大分みかんの方は大きめの子供が目を光らせているので被害は少ないが、他県のみかんはその後、何度かぶん投げられているのをみた。不憫である。

父親に至っては基本的に興味を示さない、が、たまたま1つだけぼくらを食べた後、

「なかなかうまいじゃん。みかんは真穴が最高だと思ってたけど、これもなかなか悪くない」などと、気安いコメントをした。

真穴だとー?!西宇和の大御所とそんな、適当な感じで比べないで頂きたい!いや、真穴に匹敵する、という評価は悪くない、悪くないが!

ほとんどみかんを食べないくせにそう簡単にわかってたまるか?!という気がしなくもない。まぁいいけれど・・・

母親はといえば時々、他県のみかんに手を伸ばしかけ・・・思い直したようにぼくらを手に取る。ふむふむと納得したように小さく頷きながら、箱や、中に入れられていた我が農園からのご挨拶のチラシを見返したりしている。

その姿には非常に満足を覚える。我らは農園の未来を背負って、ふるさと納税の勇士としてやってきた。図らずも、みかん対みかんの戦いを強いられたが、今回の戦いは我らの圧勝であった。

さぁぼくらの市を、農園の名前を記憶に刻みつけるのだ!それでこそ、ぼくらの使命は果たされる!

おっちゃんやったよ!ありがとうおっちゃん!

やはり、ぼくらに比べてやや余り気味のあの大柄なみかんより一足先に、ぼくらは完食されそうだ。ひとつの脱落者も出さずに!それでこそみかん冥利に尽きるというものである。

今回の東京進出は、非常に意味のあるものであった。ぼくらのおいしさ、ぼくらの農園、ひいては自治体の名前も、小さく、しかし確実に、大きな一歩につながる爪痕を残した。

でもねぇ、ぼくらを召喚したであろうそこの、みかん好きの母親よ、召喚してくれてありがとう。それでもね、あえてね、最後に一言言っておくよ。

みかんからのアドバイスだ。

もちろんわかってはいるだろう。それでもあえて一言。

 

みかんは1箱ずつ。

 

あとね。

ふるさと納税は計画的にな!