

丕緒の鳥 あらすじ
国には王がいて、官僚がいて、そして民がいる。決して、歴史の表舞台には出てこなくても。書物に書き残されることがなくても。
- 丕緒の鳥
- 落照の獄
- 青条の蘭
- 風信
十二国の過酷な世界で、名もなき、しかし役目を負って必死に生きる人々の4編の物語。
丕緒の鳥 あらすじ
国の祭礼の際に行われる謝儀(弓を射る儀式)で使われる陶鵲(とうしゃく・鳥の形をした的)を作る羅氏(らし)である丕緒(ひしょ)は、とある出来事より仕事に熱意を失って自宅に閉じこもっていた。
新王登極の報を受け、新王の前で行われる重要な儀式「大謝」を任され、苦慮していた。
丕緒の想いは、飛び、そして砕ける陶鵲を通じて王に届くのか。
女王が続く慶国の下級官僚の物語。
落照の獄 あらすじ
現王によって名高い法治国家として整備された柳国では死刑をはじめとする残虐な刑は停止されている。
そんな柳国で、狩獺(しゅだつ)という極悪人によって子供が犠牲になった。
狩獺に死刑を、もっと残虐な刑をという世論が高まる中、最終的に刑を決める法務官僚である瑛庚(えいこう)は、法と民の声のはざまで苦悩する。
瑛庚の決断は・・・?
ゆっくりと荒廃の気配を漂わす、柳国の物語。
青条の蘭 あらすじ
荒れ果て、人もまばらの街道を、王宮へと必死に急ぐ標仲(ひょうちゅう)彼が背負う箱の中には、小さな青い花の苗がある。
病んだ山を、村を、国を救うために、標仲は一路王宮を目指している。
いつ枯れてもおかしくない苗を守りながら、ボロボロになって旅を続ける標仲は、王宮にたどり着けるのか。
新王が登極して間もない国で、国を守ろうと命を懸けた男の物語。
風信 あらすじ
前王の悪政によって、蓮花は家族と友を失いひとりになった彼女は下働きとして園林で住み込みで働くことになった。
そこには浮世離れした風変わりな人々が、様々な自然を観察したりして詳細な暦を作っている。
ゆっくりとした生活に、少しずつ心が癒えていくようだった漣花だが・・・
前王の悪政で国が荒廃し、やがて王を失った慶国のとある少女の物語。
丕緒の鳥 感想
「丕緒の鳥」は4編からなる短編集なのですが、全体として重い、暗い雰囲気の漂う作品集です。
丕緒の鳥 感想
4編の中で1番、本編に近いところにあるのがこの作品です。というのも、舞台が慶国であり、女性の国外追放令を出した王の次の王、異境から来た小娘、つまり本編の主人公陽子の登極のころの話だからです。
女王に恵まれない慶国、それでも今回の王は今までの王とは違うのかもしれないという、ささやかな予感が見え隠れするラストは、静かな希望の気配がします。
落照の獄 感想
4編の中で、真に暗く重い物語です。
題材が死刑制度にかかわるもののため、フィクションの物語とは言え、現代に通じるものがあり、考えさせられます。
法とは、法治国家とはどうあるべきなのか。正しいとは何なのか。世論とは、被害者感情とはどこまで重視すべきなのか・・・司法という、国の在り方の根幹をなす部分について、容赦なく突きつけられるため、少々難しい印象かもしれません。
しかし、このような重厚なテーマも織り交ぜられてくるところもまた、十二国記シリーズの魅力の一つです。
青条の蘭 感想
4編の中では一番好きな作品です。
前半は国の荒廃と、主人公の背負ったものの重さが鬱々と描写され続けてきついのですが、最後の方で急にスピード感あふれる展開になって、ラストは小さくてかすかな、でも確かな希望の花がそっと花開いて終わる、という感じで、読後感がいいです。
なお・・・ちょっとだけネタバレになりますが、このお話は途中までどこの国のいつの物語なのか、いまいち判然としないまま話が進みます。
最後の方、物語のスピード感が増したころに、ぽんと提示される「王宮名」で、ああ、あの国の、あの頃!と分かりますので、見逃さないでください。
風信 感想
舞台は慶国、「丕緒の鳥」とほぼ同じころの物語です。ただ、慶王陽子その人の存在がはっきりと示されるわけではないため、「丕緒の鳥」 と比べると、本編との距離感はもう少し遠い感じです。
主人公は家族と家を失った後、地方官僚のお屋敷で住み込みで働くことになります。地方とはいえ官僚のはずなのに、そこで行われているのは政治とは程遠いと思われる、様々な自然の観察ばかり。そんな穏やかな生活の中で、主人公がゆっくりと癒されていく過程が痛々しく、いとおしく感じました。
「風信」の見どころは、やはりラストです。
十二国記の世界で、新王が立つ、ということはどういうことなのか。王が世界を整える、という圧倒的な存在感、そして期待感は、おのずとあふれるように広がっていく。
それは、長い長い冬の後の、春の到来のよう・・・凍てついた世界がようやく動き出す。そんな静かな高揚感が伝わってきます。
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