逢魔が時に会いましょう(荻原浩)あらすじと感想

逢魔が時に会いましょう あらすじ

就活を先送りにした大学4年の主人公・高橋真矢は映画研究会所属。成り行きで、民俗学の准教授・布目の助手になる。

民俗学、というか妖怪のエキスパートだった布目の現地調査に同行しては、座敷童を見つけたり、河童に遭遇したり、天狗に囲まれてしまったり。

日本に昔からいたと伝わる「妖怪」を題材にした、ちょっとしみじみだけど笑えるハートフルコメディ。

逢魔が時に会いましょう 感想:面白くて軽くて、ちょっとだけしみじみするエンタテイメント短編連作

荻原浩氏といえば、代表作は何になるのでしょう、映画化された「明日の記憶」か…デビュー作の「オロロ畑でつかまえて」か…あ、「海の見える理髪店」で直木賞が一番有名なのかも。

荻原浩氏は実は非常に作風の幅が広く、くすくす笑いながら読むような作品から、背筋がひやっとするような日常の闇を描いた作品まで多岐に渡ります。

こういう感じ、と一括りにはできない作家です。

私が荻原浩氏の作品に出会い、読み漁ったのは学生時代で、初期の頃の作風の印象が強いせいか、私にとっての荻原浩氏といえばハートフルなコメディ。でもちょっとほろっと、という印象。

本作、「逢う魔が時に会いましょう」はまさにその系列の作品で、その中でもかなり軽めに振り切っている感じがします。

周囲と同じように就活したくない。できない女子大生の主人公・高橋真矢と、なにやらもののけとか妖怪とかにばかり傾倒している、、でも実はちょっと見栄えのいい准教授・布目先生。

主人公真矢はなんとなく成り行きで、布目先生の助手になり、日本各地の伝説や伝承に出てくる妖怪を探しに行くという連作短編です。

初めはイヤイヤ妖怪探しをしていたけれど、そのうちなんとなく前向きになっていく主人公にしても、その要因は実はカッコいい准教授のせいだったりするところも、いわゆるお約束的展開。

いくらハートフルなコメディが作者の十八番だとしてもちょっと軽すぎるかなと、大人になってしまった私は思わなくもないです。

でも、作風も文体も、自在に操る荻原浩氏のこと、これはあえてそう狙った作品なのでは、とも思いました。

思い切りよく軽め路線に振り切った短編集、ドロドロした要素もなく、出てくるのは軽い恋心程度。それでいて日本古来に伝わる妖怪(座敷童・河童・天狗)の正体についての解釈が、さらりと織り交ぜられている。

内容的には中学生や、小学生の高学年でも読むことが可能な作品に仕上げておいて、作風は「軽く楽しく、少しだけしみじみ」つまりは作者の十八番。確かに軽い、けれど、そこは直木賞作家ですから、上滑りするようにひたすら軽いだけではない、ちゃんと押さえるところは押さえてる。

本ってね、読書ってね、ただ楽しんで読めばいいんだよ。教訓とか得るものとか、そんなこと気にしないで、ただただ「面白いなぁ」って読めばいいんだよ。

本作は、若い世代やそれほど読書慣れしていない方にもお勧めできる、読みやすく良質なエンタテイメント小説に仕上がっています。

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